2005年10月12日
退院のあとで思ったこと
いまポリクリで回っている科で受け持っていた患者さんが退院してしまったので、なんだかちょっとヒマになってしまった。今いる科は入院患者さんがとても少ないので受け持ち患者がゼロになってしまって、いわば浪人の身だ。
受け持っていた患者さんは脳の血管にダメージを受けてものごとがはっきり分からない状態になってしまっていたけれど、初めて会ったときには見覚えのない顔で警戒されたのに毎日会っているうちに顔も覚えてくれて、会話にならない会話らしきものも交わした。リハビリの専門的なことはST/PT/OTの人たちに任せたのだけれど病棟内を歩く歩行リハを一緒にやったりして、不真面目だった僕がこれまでのポリクリで一番接した時間が多かった患者さんかもしれない。
退院の日。病院の正面玄関からタクシーに乗り込んで帰って行った。年齢の割に体が大きく、手足が不自由になってしまっているのでタクシーに乗るのも一苦労で、患者さんの息子さんがタクシーの中から引っ張って、主治医の先生と僕がタクシーの外から押し込んで、本人も状況の大変さを察知してかフウフウ言いながらなんとかタクシーに乗った。左半側空間無視(←両目の視力に異常が無くても自分より左側が見えない)があって、タクシーに乗ってしまったら歩道(←タクシーから見て左側)に立っている僕たちのことはもう見えていないらしかった。どうせ病院の敷地内でほかにクルマもこない場所だったので、見送りの時だけでもタクシーの右側に立てば良かった。しくじった。
出発していくタクシーの窓から奥さんがずっとずっと、それこそタクシーが東大路に出て見えなくなるまで手を振っていた。僕も手を振った。主治医の先生と看護婦さんも手を振った。この奥さん、旦那さんが入院しているあいだ毎日毎日午後になるとかいがいしく病院に旦那さんに会いに来ていたので僕も何度も会った人。
いよいよ退院の時はなんだかしみじみしてしまった。入院なんてどんな人にとっても決して楽しい体験ではないので、その時にいた病院の人間のことなんてすぐに忘れてしまうかもしれない。ましてやその時たまたまその科で実習していただけの学生のことなんて真っ先に忘れてしまうことだろう。そう考えると、病院で働くっていうのは案外さびしい職業なのかもしれないな。必要なときに無かったら困るけど、必要でないときは全然気にも留めない、良くて雨傘、ややもすれば蚊取り線香かトイレットペーパー並みの存在だったりして。
この2週間に見たり知ったり経験したことは、もしかしたら僕は、自分が年老いて医者を辞める日まで忘れることはないかもしらんと思った。この患者さんに、もっとちゃんと「ありがとう」と言っておけば良かったと思った。
2005/10/12(水曜日) 0:49
投稿者 tomy : 2005年10月12日 23:27
初めまして。
地方の医学生です。
患者さんの退院に際してしみじみ思う気持ちに共感してしまいました。
私は、必要なときに真っ先に思い出してもらえるような医者になれたらと思っています。
では、ポリクリ頑張ってください。
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